読書レビュー

たった一冊で「普通とは何か」を深く考えた話|『コンビニ人間』

先日、第173回芥川賞が発表され、直木賞とともにまさかの「該当なし」となり、話題になっていますね!!
そんな芥川賞受賞作の一つ、村田紗耶香さんの『コンビニ人間』を読んでみました♪
この小説を読んで、私が色々と考えを巡らせたことを中心に書いていますが、多少のネタバレを含みますので、嫌な方は本作を読んでから、私に記事に戻ってきていただければと思います♪

1. こんな人におすすめ!

  • 周囲の期待や“こうあるべき”に疲れてしまった
  • 「普通」や「常識」に違和感を覚えたことがある
  • 結婚・出産・働き方について、悩んだ経験がある
  • 静かに心を揺さぶられる作品が好き
  • 村田沙耶香さんの作品が気になっている

 村田紗耶香さんといえば、今年発売された『世界99』がとても話題になっていましたね!上下巻の上にかなりのボリューム、結構ヘビーな内容である、と聞いています。
すでに読まれた方も多いのではないでしょうか?
今回レビューする『コンビニ人間』は、ずっと読みたい読みたいと思っていた作品の一つで、なんとなくすごく惹かれるものを感じていました。

KANAE

とっても私の好みの小説でした♪

2. あらすじ(ネタバレなし)

「普通」とは何か?
現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作
36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。

日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。
「いらっしゃいませー!!」
お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。

累計170万部突破&40カ国語に翻訳(2024年5月現在)。米国〈ニューヨーカー〉誌のベストブック2018に選ばれるなど、世界各国で読まれている話題作。

3. 私が思う『コンビニ人間」の魅力

①冒頭から一気に物語の世界観に没入させる

コンビニで働く主人公の視点や思考が、スローモーションのように細かく描写されていて、主人公の動きや周りの状況がどんどん脳内再生される感覚がありました。

②主人公がだんだんと空回りしていく切なさ

長い時間一緒に過ごすひとの口癖や話し方がうつってくるのすごくわかる。
無意識にそうなっていく人たちが大半なんだろうけど、この主人公は、ちゃんと考えて真似していて、「治らなくては」と思って、自分を周りに合わせていこうと努力しているのに、それが空回りしていく、切なさ…。

③モヤモヤするお話なのに、読後感は「スッキリ」

人間の黒い部分や矛盾、歪みなんかをなんとなく認識しながら生きているけど、そういうものを巧みに言語化してくれた感じがあって、決してスッキリするような物語じゃないはずなのに、読み終わってなんとも言えないスッキリ感を味わえました。

4. 「なんで?」という言葉の圧力

コンビニでアルバイトとして働く主人公に対して、まわりの反応は結構辛辣です。
「36歳にもなって、なぜコンビニ?しかもアルバイト?」

アルバイトだろうが、コンビニだろうが、主人公が納得してやりがいを持って働いているんだから、いいじゃん!!余計なお世話すぎる!
そんな中、私は過去の自分の体験と、とある記事のことを思い出していました

「余計なお世話!」な体験

私の子どもが2歳くらいのころ、体験したことです。
たまたま同じくらいの子どもを持つ、知り合いとばったり会った時のこと。不意に「仕事してる〜?」と、聞かれました。その人は仕事を始めたみたいでしたが、私は仕事をしていなくて、「してないよ」と答えました。すると、「なんで?」と言われて…。
軽い世間話だし、お互いそれほど話すこともない中で、思いついたから聞いた程度のことだとは思うのですが、正直余計なお世話だなぁと思いました。
違う人間で、能力も価値観も違うわけで。そりゃ、働いたほうがお金も稼げるわけだし、もしかしたら、気晴らしにもなるのかもしれない。でも、私はあなたじゃない。正直、母親をすることだけでいっぱいいっぱいでした。
そうは思ったものの、「本当は働いたほうがいいんだろうか?」と、悩んでしまいました。お母さんという役割だけじゃ、この社会は許してくれないのかな、と。実際、子育てしてみて、「子育ては一人で抱えるようなもんじゃない!!」と思うほど、大変でした。

NHKの『おかあさんといっしょ』も、かつては16:30ごろ放送されていましたが、今では、18:00に変更されているみたいですね。
働くお母さんの割合の方が多いから、仕事帰りのお母さんたちが忙しく家事してる間に、子供に見てもらえるように、ということらしいです。現代の大多数は、働く母親なんですよね。
多数派が少数派に対して、「変わってる人」と認識して、「なんで?」って思う。そして、「なんで」の前にはきっとカッコつきで、「(普通はこうなのに)なんで?」ってことなんだろうな…と。

KANAE

最近ドラマ化されていた『対岸の家事』も似たようなシーンありましたね!

自分も“偏見を持つ側”になりうる

数年前に、ごみ収集の作業員を見て、子連れのお母さんが「勉強しないと、こういうおじさんになるわよ」と我が子に言った、というような内容の記事を目にしたことがありました。
この記事を読んだ時「ごみ収集という仕事がどれだけ大変で、社会にとって必要な仕事なのか、考えないのか?!なにこの母親…」と思いました。

でも、じゃあ自分の子どもにごみ収集の仕事をして欲しいかと言われると、正直そうは思わない自分もいて…。
なんとなく、できたらその仕事はしてほしくないな、とか、うちの子はそういう仕事は選ばないんじゃないだろうか?とか、思ってしまっていないか?と。
本人を目の前にして、そんな失礼なことを言わないとしても、似たようなことを自分も思ってしまっているんじゃないかと、ハッとさせられました。

アKANAE

まさに、コンビニバイトをしている主人公に対する周りの思考と同じですよね…。

きれいごと言ってる自分だって、どっち側にもなりうるのだ、ということをよく考えさせられました。

5. 村田沙耶香さんとの10年越しの再会

私が村田紗耶香さんの作品と出会ったのは、実は『コンビニ人間』が最初ではありません。
10年ほど前、『殺人出産』を購入した時が、初めての出会いだったんです。
なんとなく、ものすごいタブーな感じのタイトルに、「これは買っていいやつなんだろうか!」とドキドキしながら買ったことを思い出しました。
ただ…面白くなかったわけではなかったのに、読書習慣のなかった当時の私は最後まで読むことができなかったんです。
しかし、読書の面白さに魅了された私は、10年越しに村田紗耶香さん(の作品)と再会を果たしました。
「何これ、面白そう。気になるな」と手に取った『コンビニ人間』が、『殺人出産』と同じ作者さんであると気がついた時には、運命を感じていました。
やっぱり、気になってしまうんだな、と。
そして、満を持して読んだ『コンビニ人間』が本当におもしろくて…、本当に嬉しかったです。
心置きなく、他の作品も読もう!!と心に決めました。

KANAE

推し作家さんが増えて嬉しい…!!

6. 『コンビニ人間』はめちゃくちゃ鋭利だ!

 分厚くて読み応えのあるボリューミーな本を「鈍器本」と表現することがありますよね!
それに対して、『コンビニ人間』は、分量自体は少なくて、サクサク読める本ですが、読者に「普通とは何か?」というテーマを、グサグサ突きつけてくる………いやブッ刺してくるめっちゃ鋭利な「刃物本」と表現したくなる小説でした!!
また、無理に社会の形にハマらなくてもいい、自分の「心地よさ」を大切にして生きていきたいな、と思えた読書体験となりました♪

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
あなたの読書生活がご機嫌なものなりますように…♪